SCO が米国議会にあてた嘆願書

Linux が著作権を侵害しているとして訴訟を起こしている SCO は、 2004年 1月 8日、米国議会に嘆願書を提出した。これは Linux およびその他のオープンソースソフトウエア、 フリーソフトウエアが米国の経済と国防に対する脅威であると主張するものである。 その議論は荒唐無稽であるが、この手紙は米国におけるロビー活動がどのようなものかを見るうえで興味深い。

これに対する USENIX の反論はこちら

原文は http://www.osaia.org/letters/sco_hill.pdf から入手可能。

(SCO ロゴ)

2004年 1月 8日

Washington, DC 20515

皆様

私どもはソフトウエア産業における主要な問題となっている、ある一つの重要な論争に対して 皆様の注意を喚起すべく、ここに報告致します。この問題が解決される道筋には、 以下のことがらに関する、非常に重要ないくつかの懸案事項が存在します:

この論争の根源は、「オープンソース・ソフトウエア」と呼ばれる、ソフトウエアの ある一形態の急速な普及です。最も広く利用されているオープンソース・ソフトウエア 製品は Linux と呼ばれるソフトウエア環境です。オープンソース・Linux を開発し拡張しているのは、 全世界的な、ゆるいボランティアの集合体で、通常「オープンソース・コミュニティ」と 呼ばれています。先頃いくつかの主要なコンピュータ企業が力をあげて煽動した結果、 これらのボランティアのコミュニティによる仕事を介し、Linux ソフトウエアはいまや コンピュータのサーバシステム、ウェブサイトやネットワーク、多くのアプリケーションを 実行するための人気ある方法になっています。

ソフトウエアにおける技術革新それ自体は問題ではありません -- 長い間、新しいコンピューティング・テクノロジーは我が国を成長させる 機関でありました。しかしながら、ソフトウエア開発と流通における Linux およびオープンソース式アプローチの普及に関連しては 2つの深刻な問題が存在します。

最初の問題は、Linux およびオープンソース・ソフトウエアが (しばしば無料で) GNU 一般公共ライセンス (GPL) と呼ばれる策略により開発され、配布されていることです。 これを、米国著作権法、デジタル・ミレニアム著作権法 (DMCA)、および 最近の エルドレッド対アシュクロフト訴訟 における最高裁の判例に対する 直接的な否定と信ずる人々もいます。GPL の問題と、それがどのように現在の合衆国法に 違反しているかに関する詳細な記述文書を同封致しました。

GPL を設計した人々は、彼等がこのライセンスを、ソフトウエアを「解放する」 -- 著作権により保護された領域より引きずり出し、これを公共のもとに置く -- という効力を 持たせるために作成した、とあっさり認めています。GPL の作者は、専有的なソフトウエア (ソフトウエアを知的財産とみなし、設計者がそこから利益を得られるようにするもの) は 受け入れない、とするその見解によって広く知られています。

この GPL は、ソフトウエアを、その金銭的価値をゼロにし、誰でもそれを無料で 利用可能にすることによって一般用品化しようとしています。GPL は注意深く設計されており、 ウイルス的効果 -- 専有的で、ライセンスされ、収入源となっているソフトウエアを、 それを開発した企業から「解放する」効果 -- を持つようになっています。 今まで GPL が法的な検査に直面したことが一度もないということは、 ほぼ一般的に同意されています。SCO は、この GPL がそのような検査に直面するであろう ソフトウエア知的財産における主要な事件に関わっています。

オープンソース・ソフトウエアに関する 2番目の問題は、これらすべてが オリジナルではないということです。Linux ソフトウエアは無視できない量の UNIX ソフトウエア コードを含んでおり、これらは不正に、何の許可もなく Linux に取りこまれたものです。 私どもがこのことを知っていますのは、私どもの企業 The SCO Group は、本来 AT&T によって 開発された UNIX コードの権利を所有しているからです。SCO は 6,000 を超える企業、大学、政府機関およびその他の組織とともに、 この貴重な財産に対するライセンスを保有しています。 しかし Linux の使用が広がるにつれて、UNIX からのライセンス収入は低減しています。 はたして、そうならない理由があったでしょうか。ほとんど同じコードが 手に入るというのに、SCO や他の合法な提供者から UNIX コードのライセンスを 受ける理由がありましょうか。これが SCO の UNIX ビジネスに与えた損害は、 もし現在のオープンソース方式が続けばソフトウエア産業全体に起こりうる例のひとつなのです。 この理由から SCO は、私どもが信ずるところによれば、私どもの最も重要な法人資産を 横領している人々に対し、法的な行動を起こしました。この行動を起こすことにより、 私どもの企業はときに悪意ある攻撃の標的となっています -- 私どもの企業のウェブサイトを繰り返しシャットダウンさせるオンライン攻撃もその一つです。 このような攻撃にもかかわらず、私どもはこれらの法的な事例が終息に向かうのを見届ける決意です。 なぜならば、私どもは GPL による規制なきオープンソース・ソフトウエアの流布が、 米国企業が体現するわれわれ資本主義のシステムに対する、より深刻な脅威となっていると 固く信ずるからであります。

この脅威は、以下の領域で明白に現出していると思われます:

  1. 米国の情報テクノロジー産業に対する脅威。 我々の経済は順調に回復しているように見えますが、なお不安定な面も多く、 軌道を外れる危険性もまだあります。ちょうどテクノロジーと技術革新が 先の米国経済を好景気に導いたように、これがまた起こると期待している 人々も少なくありません。しかしながら、新しい主要なテクノロジーの購入周期に、 ソフトウエア販売による収入が低減していることを想像していただきたいのです。 無料あるいはローコストなオープンソース・ソフトウエア、これらは専有的なコードに 満ちたものですが、これがソフトウエア市場で拡大しつつある部分を奪いとっているのです。 個々のオープンソースの導入は、ライセンスされ、著作権が守られた 専有的ソフトウエアの販売を横取り、あるいは排除するものです。 これはつまり、雇用の減少、ソフトウエア収入の減少、そしてソフトウエア企業の 技術革新に対するインセンティブの減少を意味します。あるソフトウエア企業の製品が、 最終的には Linux の一部として GPL のもとで「解放」されてしまうというときに、 なぜソフトウエア企業が、エキサイティングな、新しい機能の開発に 投資しなければならないのでしょうか。

    もしこれが引き続き規制されないままだとすれば、米国のソフトウエア産業への 経済的打撃は甚大なものになり得ます。インターナショナル・データ・コーポレーションによれば、 世界的なソフトウエア産業は 2007年までに 2,890億ドルに成長すると予測されています。 このソフトウエア産業によってもたらされる経済的な成長があれば、 この額のソフトウエアに課される米国の消費税は 170億ドルから 210億ドルの間と見積られます。

    我々の経済は、すでに技術職のオフショアへのアウトソーシングによって損害をこうむっています。 これはすでに皆様の選挙区でもご覧になっていることと思われますが、もし我々の技術職が 今後ともオフショアに移行しつづけ、かつ同時に革新的なソフトウエアの経済的価値が下がるとしたら どうでしょう。もう 20年以上もの間、ソフトウエアは我が国における技術革新と価値の創造の、 よい手本のひとつとなっています。もしソフトウエアがほとんど経済的価値ゼロの 商品となってしまったとしたら、我々の経済におけるこの損失はいったいどうやって 埋め合わせればよいのでしょうか。

  2. 我々の国際競争力に対する脅威。 英国やドイツ、フランス、ブラジル、日本、韓国、中国およびロシアをふくむ、 増加しつつある数の国々で、国や地方自治体の政府機関がオープンソース・ソフトウエアを 使うことを要求しています。多くの米国企業による UNIX や、 Microsoft 社による Windows のかわりに、ヨーロッパおよびアジアの至る所で Linux が、しばしばインターネットから無料でダウンロードされて使われています。 このことは特に不快です。なぜならこの Linux ソフトウエアは私どもの企業が所有している 専有的な UNIX コードを何千行も含んでいるからです。それについて私どもは何の 収入も得ておりません。SCO は米国外のとある市場において、堅固な、あまり気乗りのしない 存在を示しています -- しかし、これは Linux ソフトウエアに含まれている我々のコードの 不正な利用という形態によってなのです。

    すでに米国のソフトウエア企業は、高性能なオープンソース・ソフトウエアに 対抗するのが困難であると気づいています。これらのソフトウエアはその性能の多くを、 正当な所有者から「借りてきた」違法なコードの組み込みにより実現しているのです。 音楽産業の歳入の低減 -- これらは無料の、オンラインからのダウンロードにより 侵蝕されています -- を見れば、ここから我々ソフトウエア産業に次になにが起こるかの 警告を見てとるのは火を見るより明らかです。

    ここ何年かの間、米国議会は、略奪価格および「ダンピング」の困難な問題に 繰り返しあたってきました。私どもは、究極の略奪価格は「無料」であると主張します。 競争相手の製品から派生した高性能なソフトウエアを広範囲に普及させ、 しかもそれを無料で利用可能にすることによって知的財産の価値をおとしめる -- これ以上に損害を与えるダンピングの例はありません。

  3. 我が国の防衛に対する脅威。 私どもはまた、オープンソース・ソフトウエア -- インターネットを介して 広く利用可能なソフトウエア -- が、我が国の敵、または潜在的な敵に対して、 合衆国法の制限する計算能力を与える潜在的可能性をもっていると主張します。 SCO の UNIX ソフトウエアは輸出規制の対象となっており、それにはもっともな理由があります。 UNIX ソフトウエアの強力なマルチプロセッシング機能をもってすれば、軍事的応用が 効くスーパーコンピュータを作りだすこともできるでしょう。私どもの企業は、 この規制を厳守する必要があります。したがって、私どもは北朝鮮や、リビア、イラン、 スーダン、その他のいくつかの国々に対して輸出することはできません。しかし北朝鮮の コンピュータの専門家は何台ものパーソナルコンピュータを所有しており、 インターネット接続をつかって最新バージョンの Linux をダウンロードできるのです。 そしてこれは UNIX から横領した完全なマルチプロセッシング機能をもっており、 ただちに実質的なスーパーコンピュータの構築も可能となるのです。

    私どものこの話を、神経質すぎるととらえる人もいます。 我々はこれとは異なる見解をもっています -- このことは、すでに実際に起こっているかもしれないのです。 オープンソース・ソフトウエアと GPL が規制されなければ、我々は敵に我々の ソフトウエア輸出規制を簡単に迂回する手段を与えてしまうことになります。

私どもはこれらの困難な問題をお知らせすることによって、皆様の注意を喚起し、 皆様が経済や知的財産、そして国防について議論、あるいは投票をおこなうさいに、 これらのことを考慮していただけるよう嘆願いたします。 いまやオープンソース・コミュニティは、いくつかの主要な企業をも含んでいます。 これらの企業はオープンソース・ソフトウエアに対する政府の支持を増大させるべく、 ロビー活動を行っています。そのうちのいくつかは、政府の提案依頼書 (RFP) に オープンソース・ソフトウエアを指定するよう要求しています。 私どもは皆様に、もうひとつの側面も考慮していただくよう強調したいのです。 なぜならばオープンソースは、それが現在構成されているように、 滑りやすい坂道であると私どもは考えているからです。それは我々の 基本的な知的財産権の枠組みを侵蝕するものであり、技術革新への経済的な動機を 破壊するものです。

我々の知的財産権を保護する取り組みのひとつとして、The SCO Group は いくつかの米国政府機関との交流をもっております。私どもがお会いした団体のなかでもとりわけ、 ほとんどの政府機関の方々が SCO 訴訟の暗に意味するところを理解していただけたことに、 私どもは勇気づけられております。各機関の代表の方々は著作権の価値をすぐに理解され、 またそれが侵害されることを望んでいません。このことは多くの企業が、そこで使われているソフトウエアの 出自を知るやいなや「聞くな、喋るな」というポリシーになるように見えるのとは対照的です。

我が国の経済システムは、著作権の概念とその実践の中に映しだされています。 1980年と、1998年にも再び、米国議会はソフトウエア産業における著作権の規定を 強固なものにするために行動を起こしています。我が国の最も重要ないち産業の基盤が、 GPL (この作者はこれが著作権(コピーライト) の反対であることを強調するために 「コピーレフト」と呼んでいます) によって蝕まれ続けるのを、 これ以上許すべきではありません。私どもは、我が国のいち指導者としての 皆様の役割において、このことを慎重に考慮していただくよう、 切にお願いするものです。

敬具

Darl McBride
取締役社長兼 CEO,
The SCO Group, Inc.


翻訳: Yusuke Shinyama